ハーブティーの香りで目を覚ました。暫く柔らかいシーツに顔を埋めていたが、人の気配がしたので目だけ向ける。
「怒ってる」
「君が倒れるなんて久しぶりだと思ってね」
唸りつつ上半身を起こそうとすると、軽く掌で額を押し返された。まだ寝ていろという合図なので、大人しく横になる。
「胃の中が空っぽです」
「だろうね。いつから食べてないんだい?」
「うーん、わかんないです。ちょっとそこいらで済ませてきていいですか?」
「そこいらって、またどうせ・・・いや、いい。とりあえずハーブティーでもどうかね」
「はいー」
キノコ拾い食いの常習犯だったが、最近は比較的ちゃんとまともに食事していた。だけど大陸が元気になった辺りから、代わりに自分の食欲が衰退している。
差し出されたハーブティーを口に含み、ほぅと息を吐く。
「原因何だと思います?」
「時期的に夏バテは有り得ないだろうし・・・仕事もあるんだから、食べないとやっていけないだろう」
「わかってるんですけど、考え事するとまさに食事も喉を通らないんですよ、コレが」
原因なんて言ったら怒るんだろうけど、その“考え事”の中心はとある人。
まさか自分がこんな乙女体質だったなんて。まったくもって私らしくないことだ。
「悩みがあるのか」
「うーん、そういう重たいもんじゃないんです」
極めて明るく答える。先生はすぐ悪い方にとらえるから。
この後、ちょっと会いに行ってこようかな。いやその前に腹ごしらえだ。オカリナ亭でどか食いしてやる。倒れてふっきれたら急にお腹が空いてきた。
先生のつやつやした黒髪に目をやり、欠伸をしながら声をかけた。
「せんせい」
「ん?」
「恋に効くお薬ってあります?」
「・・・思ったより大丈夫そうだね」
「はい。ということで早速ごはん食べてきます。先生もどうですか」
「うん、じゃあそうしよう」
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最初の頃はぶっ倒れて何度もお世話になりました。
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