なんだかよくわかんない。
よくわかんない。
ただその一言に尽きる男だった。
よくわかんない男と言えば魔法使いもそうで、かと言ってあいつと同じ部類かと言えばそうでもなく。
自分達は最悪な出会い方をして、嫌悪感を抱かれたかと思っていたのに、
鐘を探してた過程で彼と少し話をする機会があった。
それから度々会いに来てくれて。(森に来た彼を難癖付けて家に連れ込む)
そして彼は、ちょっとずつ笑ってくれるようになった。
「疲れた」
「そう」
「疲れた時は甘いものよね」
すぐにケーキやパイを出せる気遣いも出来ないの、と言葉を続けようとしたが、彼が背を向けて既にそれらにフォークを添えている最中だったので口をつぐんだ。
こうも簡単に読まれてしまう自分の思考が、とても単純に思えてきた。
おまけにあたしが本を読んで目を酷使したせいか、それを考慮したブルーベリーパイとケーキだ。
どれだけ先手を打つ気なのだろう。
「どっち?」
「うーん・・・今日はあんたに選ばせてあげる」
「じゃあ、俺がケーキ」
「・・・ムカつく」
「何、パイにして欲しかったの?」
違う。
あえて言わなかったのに、あたしが食べたい方を考えての選択。
見事当たってるわ。読心術かしら。
「アイス食べたい」
ひねくれて答えたら、彼は少し考えてカバンを指先で叩いた。
「時間くれるなら、作るけど」
「・・・もういいわよ」
「そ。じゃあ、頂きます」
この男のカバンは何でも出てくるのかしら。
あたしの我が儘、理不尽な願いも、時には手厳しくも、ある程度は叶えてくれる。
一体彼が何を考えてそうしてるのか分からないけど、毎度甘えてしまうのも考えものだ。
どれだけ突っぱねた事を言っても、怒った顔はしない。
怒った顔が見たくて我が儘を言ってるのかもしれないわね。
・・・人間なのに、人間らしくないなと思う部分があるから。
関わんなきゃいいのに。あたしったら。
でもこのブルーベリーパイは美味しい。
ケーキを口に運ぶタケルを見遣った。女の子みたいな顔。・・・甘いものが別段好きなわけでもないのにね。
あたしに付き合ってくれちゃって。
「ねぇ」
「うん?」
「とっても美味しい」
「ありがとう」
こうやっていつも素直に(それこそ食欲と同等なくらい)お礼を言えれば、もっと笑った顔が見られるのに。
上辺だけじゃない、本当に嬉しそうな顔。・・・怒った顔より、こっちのがいいかも。
あたしは数少ないそれを見る度、心が締め付けられる。どうしてかなんて、考えたくない。
「君のおかげで上達したよ」
それだけ、あたしに会ってるって事よね。そう思っても、いいのよね。
此処からじゃわからないけど、そんなにほいほい女に貢ぐ性分じゃないでしょ?
「・・・クリーム、付いてるわ」
「え、どこ?」
口元に伸ばしかけたタケルの手を制し、あたしは身を乗り出して唇の横のクリームをぺろりと舐めとってやった。
うん、きめ細やかな出来。
彼は少し驚いた顔をしたけれど、すぐまたさっきと同じようにスポンジにフォークを刺した。
なーんだ。つまんないリアクション。
「ねぇ」
「何よ」
「今度俺が来るときは、ケーキ食べる?」
「・・・」
何。何よ。あたしの方がこんなに混乱して、あんたは澄ました顔して。
(この前そう言ったら、「元々こういう顔だから仕方ない」と返された)
あんたと居ると、余計な事ばっかり考えてしまう。
「いいわよ。相当美味しいの作ってきなさいよ!」
「了解。任せといて」
落ち着けあたし。あたしの考えすぎよね。馬鹿みたい・・・
「でもさ、キスしたいならそう言えばいいのに」
「はあぁぁぁぁ!??何っ・・・!何言って・・・馬鹿ぁぁぁっ!!!!」
「あれ。違うの?」
本当によくわかんない男。よくわかんない。
さらりと爆弾を投げつけて素知らぬ顔で帰っちゃう!い つ も!
けど、それでもあんたに会いに来て欲しいって思っちゃうあたし自身もよくわかんない。
あぁもう何なの。いよいよ末期だわ。
せめてこのクリームが不味かったら、思いっきり横っ面を引っ叩けたのに!
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振り回すつもりが振り回される。
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